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最高裁判所第三小法廷 昭和23年(れ)1999号 判決

主文

本件上告を棄却する。

理由

辯護人梨木作次郎の上告趣意は末尾に添付した別紙書面記載の通りである。

第二點について。

論旨は多岐にわたるものであるから(イ)(ロ)(ハ)の順を追うて説示する。(イ)假りに被告人が被害者岩川毅の所爲は労働組合法第一一條に違反するとして(原判決は同條に違反すると認定したものではない)これを地方労働委員會に提訴する權利を有すると考えたとしても、岩川毅において提訴されることは不利益な害悪であるとしてこれを避けようとすることは人情の然らしむところであるから、其弱點に乗じて提訴すべき旨を告知して右岩川を畏怖せしめ(原判決は畏怖せしめたと認定したものである)適法に取得することのできない財物の交付を受けることは恐喝罪を構成するものと解しなければならない。そして原判決は被告人が右岩川に要求した金額は被告人の當然取得すべき權利のあるものとは認定しないものであり、其認定については、何等法則に違背したことを認められないから原判決は、所論の如き違法はない。(ロ)被害者岩川毅が金六萬圓を被告人に交付したのは不當労働行爲の追求から開放されたい爲めであって、被告人の行爲により畏怖心を起した爲めではないとの主張は、原審の事実誤認の非難にすぎないから上告適法の理由とならないものである。(ハ)被告人の行爲は、労働争議行爲でないことは當時被告人は退職後で判示會社の労働者でないこと及び被告人の判示會社に對する主張は、單に個人的な契約上の主張であつて、労働組合又は労働者の團體としての争議でない等の點に鑑みて明白であるから、原審において被告人の行爲を労働争議行爲と認定しないことは當然である。從つて論旨は理由がない。(その他の判決理由は省略する。)

よって刑事訴訟法施行法第二條旧刑事訴訟法第四四六條により主文のとおり判決する。

以上は裁判官全員一致の意見である。

(裁判長裁判官 長谷川太一郎 裁判官 井上 登 裁判官 島 保 裁判官 河村又介 裁判官 穂積重遠)

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